お手入れはアップデート。
嶋津「すみません、僕庭に関して分からないことが多いのですが。 庭をお手入れするというのはどういうことなのでしょう?」 二朗「植物ってね、放ったらかしで伸ばしたままにしておくと気持ち悪いんですよ」 嶋津「気持ち悪い?」 二朗「そう。 見ていてヘン、おかしい」
二朗「何て言うんでしょう。 生理的に気持ちが良くないんですよ。 お手入れは、人工的に、見ていて気持ちが良い状態にする。 これがポイントです」 嶋津「見ていて気持ちが良い状態、ですか」 二朗「植物ってね、成長するんですよ、当たり前ですけどwww 成長する余白を読み取りながらそのお手伝いをするっていう感じです」
二朗「道の両脇に植えた場合、植物は意味なく伸びているわけではないんですよ。 植物って水と光を求めて枝を伸ばすんですね。 そして影を作っていく」 嶋津「そうか、光と水を取り合って成長しているんですね」 二朗「そうです。 そうして茂り始めると、足元の小さな植物は生存競争に負けて枯れてしまいます。 そこを人工的に工夫してあげるんです。 僕らの仕事は、植物が下から上まで全部きれいに育てるために枝を抜いたり、葉を落として、光をまんべんなく下まで差し込むように整えていく」 嶋津「光の動線を作ってあげるってことですね。 カッコイイ」 二朗「だから肝は、いかに陰を作るか。 空間のおもしろさって光の当たる部分だけじゃなくて、陰にもあると思うんですよね。 人間も木陰は気持ち良いじゃないですか? あれは生き物としての生理的な心地良さだと思うんです。 植物もそうだけど、人間にとって気持ちの良い陰をいかに作るか」
嶋津「生理的な心地良さを庭としてデザインする。 すごいです」 二朗「でもね、結局答えなんてないんですよねww」 兄も言いましたが、一様に緑と言ってもその違いは多種多様です。 重々しい緑もあれば、気持ちの良い緑もある。 それは感覚的な気持ち良さなんです。 『なんとなく気持ち良い』を演出する。 そういうのを育てながら作っていく。 難しいけれど、とてもおもしろい。 技術よりも感覚で伐ることの方が多いです」 嶋津「確かにそう言われてみると答えがあるようなものではありませんね。 論理性を超えている部分が大きい」 二朗「でも、技術はもちろん必要です。 僕の中の『なんとなく気持ち良い』をいかに形にするか」 耕造「人間の感じる気持ち良さ。 それをうまくデザインするためにすごくお金のかかっている部分もあるのだけれど、皆、あまり気付かないwww 『お金をかけている』というのが分からないほど自然に作り込めた、という意味では成功ですが。 ナチュラルに、と言っても結構テクニックで裏打ちされている部分があるんですよ。」 スター不在の造園業界。
耕造「まだ職人の地位が低いんです。 ようやく、僕らは色々なことをしてなんとなく周りとは違うと認識してもらえるようになりました」
【受賞】 ビズガーデン大賞佳作 日比谷公園ガーデニングショー入賞 全国都市緑化おおさかフェア デザイン部門銀賞 八尾市文化新人賞 《GREEN SPACEホームページより》
数々の評価を受け、全国を講演で回り、雑誌にも多数掲載されるGREEN SPACEの仕事。 他ジャンルとのコラボレーション、今やボーダレスに活躍する辰巳兄弟。 その理由に迫ります。 耕造「変わった動きをとり続ける事で差別化を計り、それが次第に周囲に浸透していきました。 だから、あえて最近では自分たちのことを『植木屋』と呼ぶようになりました」
嶋津「確かに植木屋さんというと落語に出てきそうなイメージですね」 耕造「そうなんです。 イメージって強烈ですからね。 今までだと背伸びするような感覚で、自分たちを『庭師』だと言ってアピールしていた時もありました。 置かれている立場の低い時に『植木屋』と言っていたら相手にしてもらえない。 ある程度地位が安定してきたので、逆に自分たちの事を『植木屋』ということで、植木屋の地位を上げたいんです」
二朗「建築の世界にはスターがいます。 インテリアの世界もそうです。 でも、僕らのやっている造園の世界にはそれに当たる人物がいない」 嶋津「スターがいない、と」 二朗「もちろん有名な人はいますよ、造園の世界にも。 僕たちはもちろん知っている。 でも一歩外の世界に出ると知名度は一気に下がります。」
二朗「僕たちはですね、庭をカルチャーに押し上げたい」 嶋津「庭はカルチャーではないのですか?」 二朗「いや、文化と言えばもちろん文化です。 伝統文化としての認識です。 『よく庭の仕事をしている』って言うと、『カッコイイですね』って言われたりするんです。 でもね、思うんですよ。 その人は何を見て『カッコイイ』と言っているんだろう、と」 嶋津「引っかかるんですね。」 二朗「えぇ。 僕たちの仕事が一体どういった内容なのか、それが分かっていて『カッコイイ』と言っているのだろうか。 過去の遺産ですよね。 伝統の持つ『なんだかよく分からないけれどカッコよさそう』という雰囲気に対して『カッコイイ』と言っている。 どれもこれもぼんやりとしたイメージの中です」 嶋津「そこを明白にしたい、と」 二朗「京都に古い庭を見に行くと皆『カッコイイ』って言いますよね。 僕は歴史なども好きですが、あれらのデザインはあの当時の最先端のものを空間の中に放り込んでいるんです。 確かにすごい。 でも、今見ると正直古い。 古いけれど、作られた当時は超オシャレなものだったんですよ」 嶋津「舞台でいうところの、能・狂言、または歌舞伎みたいなもの」 二朗「まさにその通りで。 古い庭は皆見に行くけれど、新しい庭には誰も見に行かない。 これはおかしいんじゃないの?って思うんですね。 今の庭をみんなが見ないまま『カッコイイ』って言っている。 この時点で時代から忘れられていると思うんです。 新しい庭が人々に興味を持たせる求心力を持たなければならない。 それがカルチャーになるっていうことだと思います」
二朗「僕たちは伝統的な庭師ではないので、別に何をやっても誰に怒られることもない。 型なんてないですし、おもしろいことをおもしろくやる。 それでいいじゃないですか? こんなおしゃれなものを作れるんだぞっていうのを言いたいですよね」 嶋津「それがカルチャーへと押し上げる力となる」 耕造「GREEN SPACEのテーマですよね。 カルチャーと関わりたい。 カルチャーにアップデートしたい」 カルチャー・・・教養、文化、または〈カルチャーculture〉には「耕すこと」の意もある 閉じられた世界にいてはならない。
耕造「異業種(またはカルチャー)と関り合うことも大切になります」 嶋津「コラボレーションという意味ですか?」 耕造「インプットという意味では他ジャンルからの刺激を受けることは大きいです。 それと、庭の業界の裾野を広げるという意味でも重要になってきます」 嶋津「つまり、業界の外で顔を売ることも造園の裾野を広げることになる」 耕造「そこは意識的に動いていますね」 嶋津「それがまた業界の中での差別化にも繋がる。 耕造さんのその金髪もそういった理由ですか?」 二朗「それはモテたいだけやろ?」 耕造「モテたいだけです」 嶋津「wwwww いや、髪型ももちろんそうですが、ファッションにしても『植木屋』さんっぽくないところにも何か根拠があるんじゃないかって」 耕造「そうですねww モテたいというのは冗談としてw 確かに髪型、ファッションなど色々考えているかもしれません。 もともと作業着で打ち合わせに行くことを意識的にしていたこともあります。 下駄をはいたり、雪駄をはいたりしてイメージを作る、という。 反対に今は短パンにビーサンで打ち合わせに行ってみたり」 嶋津「耕造さんはプロデューサー視点でありながら、ご自身をアイコン(象徴)としてブランディングされているんですね」 耕造「そう分析されると恥ずかしいですがww 職人の方へ近寄ってみたり、離してみたり。 二人で考えながら意識的にやっている部分はありますね」
嶋津「確かにこんな植木屋さんいないwww 差別化を図るために、業界の人とは違う動きをしてきたことが結果に繋がってきた、ということですね?」 耕造「はい。 でも、特に意識が強くなったのはアパレルの仕事をさせて頂いたことですね」
耕造「異なる業界の方と関わらせて頂く時、そこに共通言語が多少なければ仕事にならないんですよ。 反対に職種が違っても共通言語がさえあれば意思疎通が早いんです」 耕造「全く通じないと、意外と仕事が形にならなかったりする。 僕らが作るものもあるけれど、共通の価値観を分かりやすくしている。 そういう意味でアパレルというカルチャーにアクセスしていれば、感覚として相手の意図が入ってきやすいんです」 耕造「ああいうところ(上記のアパレル施設)の庭をやることは僕たちにとってとても重要なことでした。 特に裾野を広げるという意味合いにおいて」
耕造「もう一つ理由があって。 業界の中で固まっていると(業界も人も)死んでしまう、という危機感はあります。 他業種との関わり合いを大切にしているのはそんな気持ちからかもしれません。」 嶋津「動脈硬化だ。 血の入れ替えという意味合いですか?」 二朗「まさにそうなんですよ。 庭の世界の中でうまい奴がいても、それは他の世界の人には分からない(伝わらない)。 そんな偏ったテクニックにこだわるよりも、外へ向けてアピールしないと」
耕造「露出を高めたり、違うジャンルの人と関わることで認知度を上げ、影響力を持ち、庭に対する認識や見方の底上げをしたいですね」 二朗「何度も言いますが、カルチャーに押し上げることが大切なんですよ。 庭に関する雑誌(専門誌)はもちろんあります。 でも、業界の内側にいる人以外は誰も読まないんです。 そうではなくって、ブルータスやポパイに載りたい。 絶対にそっちの方が庭の未来にとって価値のあることなんです」
vol.3へつづく